丸亀暮らし手帖
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 いつかの未来として思い描いていた夢が思いもかけず実現してしまうことがあります。この春から丸亀市に暮らす川野亜依さんのいまの暮らしもまさにそんなお話。一見大人しそうに見える川野さんですが、自分の感性を信じる心と、新しい環境に飛び込む勇気を持った、今を生きる女性です。現在、川野さんは丸亀市沖の広島という小さな島で暮らしています。いまも昔も採石業を主産業とする人口200人ほどの小さな島です。ここから毎朝職場のある丸亀市内まで穏やかな瀬戸内海をフェリーで通勤しています。神奈川県横浜市で育った川野さんと島とのご縁は2年前に遡ります。丸亀市が文化振興と離島の活性化のために2012年から取り組んでいた「HOTサンダル」という事業がきっかけでした。HOTサンダルは、東京の美大生が夏休みの約1ヶ月間を利用し、丸亀市の幾つかの離島に分かれて滞在しながら作品制作を行う事業です。主催者である丸亀市がアトリエや宿泊場所を無料で提供し、制作費の一部を補助します。一方で大学生は制作活動のみならず、島民と共同でワークショップを企画したり、期間中に制作した作品の発表会や交流会を開催します。川野さんはこの事業の2期生として参加しました。当時は現在暮らす広島ではなく隣の手島での滞在でしたが、同じ志を持つ仲間と共に過ごした時間は何ものにも代えがたく、大学生活でも忘れられない思い出となりました。 美大を卒業後はアルバイトで生計を立てつつ制作活動を継続しようと考えていた川野さん、「いつかまたHOTサンダルみたいに島で滞在制作ができたらいいなぁ。」と、なにげなく大学のアトリエで友人と将来を語っていました。すると、その話が「HOTサンダル」の関係者につながり、市も全面的に応援する形で空き家探しが始まり、職場も市の美術館に決まりました。自然に対する強い憧れがあったわけではありません。ただ、自然の中で作品づくりをした時に自分自身がどう変わるのかということに興味がありました。「きっと作家としての自分にとって良い刺激になるのではないか。」新しい世界への期待を胸に島に越して来ました。P08

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